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「誰のために働くのか〜農業や農家が抱える課題の解決へ〜」井出飛悠人 - 後編 -

【今解決すべき課題を見極め、提供する解決策も転換していく】

 

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━ここからはシェアグリの事業内容についてお聞きしたいと思います。設立当初に構想していたのは農機具のシェアリングサービスで、その後農家の方と働き手のマッチングアプリに転換したそうですが、どのような経緯で変更に至ったのですか?

 

井出:はじめに考えた農機具のシェアリングサービスは、農機具の中には年間で1、2週間しか稼働しないようなものもあるので、今必要な人と必要でない人をつなぎ合わせられるようなサービスがあればいいんじゃないかと思って始めました。しかし、より大規模な農機になってくると、故障した場合や、使いたいタイミングで所有者の人が使えなかった場合にどこまで責任を持てるか、といった話が出てきて、まだまだ会社の規模も小さかったので、全ての保険を網羅したり、対策を立てたりすることができませんでした。さらに、色々な農家さんに話を聞いてみると、今直近で一番困っていることとして、人手不足を挙げる農家さんが多かったので、直近でやるべきは人手不足を解決できるサービスなんじゃないかと思い、変更しました。

 

━ピボットの際に、サービスを変更することに不安や挫折感を感じましたか?

 

井出:そのときのピボットに不安や迷いはなかったです。正直、農機具のシェアリングが当たる、と最初から思ってやってきたわけではなく、たくさんある課題の中から、一つの課題にソリューションを提供してみて、うまくいかなければ別の課題に取り組む、という形で、試行錯誤を繰り返しながらピボットしていく、という進め方だったので、サービスの内容を変えることに対して挫折は感じなかったですね。

 

━最も必要とされているところに応えていこう、というむしろポジティブな転換だったんですね。その後、マッチングアプリのサービスも停止し、現在の人材派遣事業に切り替えたそうですが、どんな背景があって停止に至ったのでしょうか?

 

井出:アプリから今の事業にピボットする時は色々な葛藤がありました。アプリに関しては、色々な行政さんであったり旅行関係の会社さん、大手の会社さんが興味関心を持ってくださり、業務提携や協業をやらせていただいていたので、事業としては何かしら形にすることができるんじゃないかと思っていました。一方で、自分たちはそもそも農業の人手不足解消や人件費の削減を大きなコンセプトとして置いていたのに、外部からは地方や農業の関係人口創出が求められていて、進めていくにつれて自分たちのサービスもそっちの方に流されてしまっていました。外からの評価は良かったのですが、このまま続けていたら自分たちが解決したい課題に大きなインパクトを与えることはできないと思ったので、より強いインパクトを与えられるソリューションを考えた結果、アプリのサービスは停止して、今の事業をスタートすることにしました。

 

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【国籍を問わず、コロナで失業してしまった人たちの雇用を支える】

 

━コロナによって事業にはどんな影響がありましたか?

 

井出:当初は海外の人材を採用して、自分たちの派遣スタッフとして日本で働いていただく予定でした。しかし、コロナで渡航も全くできなくなってしまったので、予定していた派遣人数がいったん0になったのが2020年の2〜4月あたりでしたね。たっていた売り上げ予定が一瞬で0になる、というのをコロナで経験しました。

 

━今はどうですか?その後何か変化はありましたか?

 

井出:飲食や観光業で失業してしまった日本人の方が多くいらっしゃったので、他の会社さんと業務提携をしながら、そう言った方々の雇用維持支援として人手不足の農家さんとのマッチングを行っています。また、日本国内にいた技能実習生で、コロナで失業してしまった方や帰国困難になってしまった方もたくさんいらっしゃって、日本人より難しい状況にいるんです。実習生は務めていた工場が倒産してしまったとなると、制度上今までは転職もできなかったですし、自分の実家に戻ることも渡航制限でできませんでした。そう言った方々を守るために特定技能外国人の制度が出されたので、我々はその制度を活用して、農業分野以外の実習生で失業してしまった方々のビザを変更して雇用し、人手不足の農家さんとマッチングしています。

 

━一度白紙に戻されつつもコロナ禍で新たなニーズを発見して、それに対応して事業を進めていたんですね。

 

井出:そうですね。年明けのときの想定とは全く違いましたが、どうにか環境に対応してやり方を変えながら進めてきました。

 

【大切なのは何をやりたいのかよりも、誰を楽にしたいのかということ】

 

━「傍を楽にする」という信念のもと、そのときに一番解決が求められている課題を事業を通して解決していく、という姿勢が印象的でしたが、今後もそういう姿勢で事業を進めていくお考えですか?

 

井出:そうですね。農業分野や農家さんの課題を解決していくことで「傍を楽にする」という考えはブレずにやってこれていますし、それ自体は変わらず今後も続けていきます。今は人手不足の解決に取り組んでいますが、まだまだ他の課題もあるので、様々な課題を連続的に解決していくような会社、または事業立ち上げをしていきたいと思います。

 

━以前よりも起業という選択肢が一般的なものになってきていますが、起業に興味があるけれど、なかなか一歩踏み出せないという人に対して何かアドバイスをいただけますか?

 

井出:人それぞれにはなりますが、自分は起業してみて、朝から晩まで働かないといけないし、やることは山積みだし、大変なことが多いものの、自分の人生を生きてる、ということを日々実感できていています。もちろん企業に所属しながら、自分のライフワーク的な働き方もすることはできると思いますが、起業家はそもそも自分のやりたいことを立ち上げて、自分が作りたい世界観のために日々生きているような形なので、本当に自分のやりたいことをできてるなと日々感じながら生きて来れています。起業するまでは色々な葛藤もあると思いますが、トライしてみて、ダメだったらダメでまた考えればいいし、まずは一歩踏み出してみることが大切なんじゃないかと思います。

 

━卒業後の進路を決めるにあたって、自分のやりたいことがわからない、と悩む学生も多いのですが、どんなアドバイスがありますか?

 

井出:やりたいことっていうのはやはり難しいなと思います。やりたいことっていうのは方法論だと思うんですが、私が大切にしている「傍を楽にする」っていうのは仕事を通して「誰を」楽にするかということなので、その仕事が自分が楽にしたい人のためにやってることだと考えると、楽しくやっていることだと思えるんです。その仕事が誰に向けてなのか、自分が仕事を通して誰を幸せにしたいのか、というところがふに落ちていればその後の仕事は言ってしまえば作業なので、何を選んでもそんなに変わらないと思いますよ。

 

井出さん、ありがとうございました!

取材 井上 海南子

文 井上 海南子

写真 井出さん提供

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